July 01, 2009

【誇り高きお調子者の文章】

10年近く前の事を書き綴ったり思い出したりしながら、俺は日に日に気持ちが楽になっていくのを強く感じていた。それはさながらチャールズ・ブコウスキーの様にも感じられ、あの偉人が書かずにはおれんかったその理由を今まで以上に明確に体感した気分だった。似せる必要など一切ないが、それは多分、まるで同じ気分だった。俺は自らの過去に触れ、様々な感覚を取り戻し、そして足取りは軽やかそのものになった。

屋上で煙草を吹かしたり、ギターを抱えたまま眠ったり、エルヴィスを聴いたり、わきまえと教養溢れる古本屋で突然バディ・ホリーが聴こえてきたり、焼豚ラーメンを食べたり、夜には何も食べんかったり、昼間からビールを呑んだり、下駄が欲しかったり、サングラスが欲しかったり、突然左目が腫れてきたり、保険証を要したり、金髪にしてやろうと企んだり、気付けば7月だったり、ルネ・マグリットの画集を探したり、俺みたいなモンにもちゃっかりと定額なんちゃら金は支給されたり、行きつけの昭和の香り漂う喫茶店で髪の毛を切った事を褒められたり、常連顔を気取ったり、色々とある。

ある男とは渋谷駅構内ですれ違い、ある男とは下北沢一番街で偶然すれ違ったりする。俺の背中越しに声が聞こえた、

「元気か?」

俺は頼りなく、それでいて力強く左腕を上げ、半分だけ振り返りながら問いに答えた、

「ヘイ!」

ある男は雨宿りの名目で俺の部屋へとやって来て、ロング缶ビールを呑みながらふざけて笑い合った。ロング缶ビールは男の奢りで俺はその時、長編を画面を睨みながら書いていた。

ある女とは渋谷駅構内で待ち合わせた。俺が持ち歩くスーパー袋、本やら何やらを詰め込んだスーパー袋を指差して女が聞いた、

「何か買ったの?」

俺は答えた、

「これの事か?これはバッグやがな!」

女は笑ったが、俺はその倍、高らかに笑っていた。スーパーではウイスキーやらロング缶ビールやら高級おつまみやらを買い込んだ。買い物袋を持って人と人との間をくぐり抜けて早足で歩く俺の背中越しに声が聞こえた、

「人と人の間駆け抜けるの上手過ぎだね」

俺はドンクサイ輩が心底嫌いだった。そしてそのドンクサイ輩のさらに後ろに堂々と群がり続ける輩がその80倍嫌いだった。

「まぁ、プロみたいなモンやで」

俺は答えた。資格試験があるなら是非とも受けに行きたい心意気だった。頭の悪い輩の見分けは、例えば傘の持ち方一つで分かる。俺は何を見ても腹が立つ分、同じにはならん様に気を遣い続け、そして毎日気疲れしていた。俺も頭は良くないが、そんななすび野郎と一緒にされる事だけは真っ平御免だった。

部屋に辿り着き玄関を開けた瞬間に女が言った、

「イメージ通りの部屋ですね」

「怖いイメージ」「アイスクリームを食べないイメージ」「タスポなんて持ってないイメージ」「絶対に走りそうにないイメージ」、色々あるが、俺はいつだって自分の思考にだけは忠実に生きてきた。イメージなんて誰かが勝手に抱くモノで俺はイメージなど考えた事もないが、女は部屋の中を見渡しながら何度も同じ事を呟いた。俺はそれを素直に喜んだ。

俺はある意味、人が良過ぎた。情に脆く、情に厚過ぎる一面があった。それは大事な事だが、ある女には「アンタは優し過ぎる」と嘆かれてもいた。

気懸かりは一点のみだった。俺はその「一点」に執着し過ぎ、切り離せずにいた。それを経て跳ね返ってきたモノは俺の責任もありとんでもなく過酷な結果になってしまったが、俺は精神病でも何でもなくただただ日々を生きていた。それは確かに深い暗闇だった。後悔を公開し、人間関係を航海していた。そしてその「一点」を振り切った時、俺は気付けば心の底から笑っていた。俺はやるべき事をやり過ぎる程にやった。やり過ぎてしまった。そう、全ては茶番劇だった。茶番劇に始まり茶番劇にて幕は閉じた。

俺の体を叩きながら女が言った、

「何故アンタ程の人がそこまで??」

女は笑っていたが、俺はその倍、高らかに笑っていた。こんな女と旅に出たら面白いかも知れんなと思った。切り出したのは女の方だった、

「一緒に旅に出ませんか?」

俺は答えた、

「罵り合いながら最後の最後は握手だ、終わり良ければ全て良しだ」

持ち前のスナック感覚を駆使して俺はまた旅に出るだろう。

「美術館にも行きませんか?」

「そんな神聖な場で俺は一言も話したりはせんけどな」


女は笑っていたが、俺はその倍、高らかに笑っていた。

ある男とはルート・スゥイートホームですれ違い、煙草を吹かしながら語り合い、話の流れで「新宿へ行こうか」となった。男の目当ては一箱の高級煙草だった。俺はボトルコーヒーやらおつまみやらを入れた買い物袋を持っていた。高級煙草を手に入れる小さな旅に出るその前に、買い物袋を部屋へと置きに戻った時、玄関を開けた瞬間に男が言った、

「イメージ通りの部屋ですね」

俺は照れていた。俺のイメージがどういうモノなのか定かではないが、ほとんどの人間が俺の部屋へやって来る度に同じ事を口にした。生き方そのままで全てが潔い、自分に正直で嘘が一つもないと男は笑っていた。

男は俺の文章を読んでいた。文章に隙がなく、魂で溢れ、それで生活するべきだ、俺は気持ち悪い程に褒められていた。それは「コイツ何か裏でもあるんちゃうんけ」と思う程だった。俺は確かに全てに魂を宿らせていた。俺はまだまだ駆け出しの人間という事を充分にわきまえた上で、今の時点でそれがぶれる事なく誰かに伝わっとると感じる言葉を耳にした時、俺は何よりも嬉しかった。その場にヒップな女でもおればさらに誇らしい気分にもなれたが、俺達は二人きりだった。そして俺はその二人きりの雰囲気を愛してもいた。

「詩人になれば良いのに。あっ、もう詩人か」

男は笑った。俺は、いや、詩人は照れ続けていた。

新宿駅構内にて、ごった返す人と人との間をくぐり抜ける俺の背中で男の声が聞こえた、

「そっちじゃない、こっちですよ!」

そんな事は分かっていたが、俺はまず、人と人との間をくぐり抜ける事に全神経を注いでいた。全ての事柄は繋がっていて、全ての行動は俺の反射的な行動だった。

高級煙草を手に入れて、「喫茶西武」、すなわち新宿にも存在する昭和の香り漂う喫茶店で煙草を吹かしながらアイスコーヒーを飲んだ。男は高級煙草を二箱手に入れ、その内の一箱を二人で吹かした。男は禁煙中だったがとてもウマそうに煙草を吹かしていた。コーヒーを飲みながら俺達は酔っていた。男は写真を撮り、俺の事を含めて文章を書いた。

http://ameblo.jp/aogrove/entry-10291534522.html

この男だって充分なやり手のくせに、俺は思った。全く違う方向に目を向けながら、俺達はお互いを褒め称え合う事が出来た。

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余った高級煙草を俺が受け取り、俺達は新宿の街で握手をして別れた。俺はレコード屋へと出向き、男は下北沢へと舞い戻った。それはとても自由だった。

俺は紛れもなく物書き体質だった。誰が何と言っても蹴散らしてやれば良い。中途半端な偽者野郎にはドロップキックした直後になんちゃらスクリューでも喰らわしてやれば良い。書く事が何よりも好きだ。時間は瞬く間に過ぎていく。

俺は酔っていた。そして今も酔っている。俺はとり憑かれていた。そして今もとり憑かれている。

そんな訳で俺には友達がいた。気を許せる友達と呼べる友達が何人も存在した。東京に出て来て何年間か、俺には友達と呼べる友達など皆無に近かった。これは全て一つずつ、それでいて確実に組み上げてきたモノだ。俺の事を良く言う奴だけが友達ではない、「友達」という意味を俺はわきまえてもいた。

結局、俺は何も見失う事なく、何も変わってなかった。俺は俺のままだった。合うか合わんか二つに一つ、それで良かった。またミスを犯す事もあるだろう、バットしかし、俺は確かにまた一つ賢くなった。俺は全てに焦りすぎていた。俺は見切り発車を繰り返してもいた。スナック感覚は時に度が過ぎた。

とにかく深い暗闇を俺は抜けた。ようやくだ。俺は自分の弱さを知り、強さも知った。そして誰かの力も借りて俺は本格的に蘇った。もう間違いない、俺は立ち上がった。俺の事が心底嫌いな輩にも、さりげなく言葉をかけてくれた人間にも、何にもせんかった人間にも感謝を忘れる事はない。

さぁ、今までそうしてきた様に、そろそろ全てを笑いに変える時がきた。俺はいつだって笑って救われたいのだ。

よく言われる事がある、「本当に良い名前ですね」。俺は名前負けなどしたくもない。期待しろ期待しろ、俺の今後に期待しろ。嫉妬しろ嫉妬しろ、俺にはまだまだ自信があった。

夏の甲子園は予選開幕、俺は今年も甲子園まで駆けつけるだろう。奴等は言葉の代わりにボールを投げ、そして打ち返してもくる。格好良過ぎて嫉妬するぜ。










at 23:12│Comments(0)TrackBack(0)│ │短編 

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