May 26, 2009

「心の友達」 Vol.5

麗しのスナック感覚を駆使してフォーキータウン吉祥寺へ向かおうとルート・スゥイートホームを歩けば一人の男が俺を見つける。

俺が以前結成した「ヤウターズ」なるド素人ブルースバンドでギターを弾いた男、明大前からスゥイートホームに引っ越してくる際、レンタカーで運転までして荷物を運んでくれた男、三年振りに偶然にも再会する男。

「おいおいどうした、こんなところで何をやっとる?」

この部屋は当時「ヤウターズ」の溜まり場、煙草と音楽、そして練習が止む事などなかった。

当時、練習をしてない事がバレバレの男にボロカスの言葉を投げつけた。「やる」と言った奴が「やらん」かった時、その無責任な発言に俺はご多分に漏れず心底ハラワタが煮え繰り返る。

バットしかし解散ライヴの際、今までステージにさえ上がった事がなかった男がMCで言った、

「こんな経験が出来たのも全てこの男のお蔭です」

俺は無論、心で泣いた。すなわち終わり良ければ全て良しだ。

そんな男と三年振りの再会、吉祥寺行きを遅らせ缶コーヒーと煙草で近況を語り合う。

男は今や一流会社の店長、俺は今も変わらず無名音楽家。

「面白いモンやね、ほんまに!」

ところで俺はポッケにモノが入りきらん際、スーパーの袋にモノを詰めて持ち歩く。カメラ、文庫本などを入れて持ち歩く。

そのスーパー袋を指差して男が言ったぜ、

「何も変わってないですね、こういうところとか」

オーケー、オールオーケー、一億円貯金が出来たとしても俺はこういう部分を絶対に大事にしたい。

ブーツインをしたその瞬間から俺が俺でなくなる様に、ブランド物に頼る様になったら俺は終わったも同然だ。

「そのシャツいくら?」

「720円やがな」


これこそが俺の理想、時に例外もあるが根本はいつもこれだ。

いつか死ぬ時、「俺が俺で良かった」と笑う義務が俺にはある。コソコソと意味もなく怯える様な真似は金輪際止めろ。

男と別れフォーキータウン吉祥寺において酔いどれポーグスのレコードを手に入れ、ライヴハウスに駆け込めば十条フォークジャンボリーと再会。

男も女も関係ない、俺は人間らしい人間が好きだ。




at 00:37│Comments(0)TrackBack(0)短編 

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