May 20, 2010
レッド・ウィーク/短編集
’10.5.19(水)
「さて、何処へ向かう?」
こんな事を考える余裕さえ持ち合わせている俺は自由の立役者。
本を小脇に挟んで向かうのは渋谷は文化村美術館、ここに出向く時にはいつだって雨が降っている。
神聖にして閑静極まる美術館内を徘徊していたら、相も変わらず男と女のイカサマ与太話が耳に飛び込んできやがる、
「ピカソはラフスケッチの時点で凄いのよ!」だとか何だとか、
俺の大嫌いなさも知った様な口振り、「私、ピカソとは親密な関係だったの」声でだ。
「ヘイ、ファッキンガール!!」
舌打ちの一つでもかました直後、弁えた警備員姉ちゃんがナスビカップルの元へ即座に近寄る、
「お静かにお願い致します」
さぞかし恥ずかしかっただろう、その胸中だけは察して「あげる」、
そしてクールな警備員には座布団12枚だ。
小粋な喫茶室で読書をした後、ハイカラ恵比寿タウンへと向かう、
ジェイムズ・チャンスに会いに行く為に。
幕が開き、音が鳴り出した僅か1.7秒後、俺は自然の内に弾み出す、
タキシードにリーゼント、オマケに首にぶらさげているのはチンピラサックス、
要するに伊達男を愛している。
着飾った伊達男なら誰でも良いという訳ではない、
自然の内に「伊達男振り」が抑え切れんばかりに噴き出しているか、
それだけが重要だ、それは全て生き方に反映される。
中身空っぽのノータリンがいくら真似ようと気取ったところでその「域」には到底及ばないって仕組みだ。
そんな時、俺は380円ジャケットと甲子園Tシャツの組み合わせ、
それに加わるジャイムズ・チャンスのリズム、
すなわち、全てを取っ払った奇跡の融合だ。
途中、焦燥椎茸野郎が野次を飛ばす声が聞こえた、
「こいつら本気出してないぜ!」
俺がその椎茸君の真横にいたなら、俺は首を掴んで持ち前の口の悪さを駆使して罵っただろう、
「少なくとも貴様よりは本気だぜ」
ファンクとジャズとパンクの隙間で、誰も演ってない完全オリジナルを貫いているアヴァンギャルド振り、
その時点で貴様の様な万年場外6軍選手よりは100%中5881%本気だ。
演奏者が日本人ならヤツはこんな野次を飛ばさなかっただろう、
言葉が通じない事を分かった上でヤツは叫んだのだ、
そんな輩の言葉を一体誰が信じる?
特急地獄行き列車の特等席乗車券を一枚用意して「あげる」。
恵比寿から渋谷まではぶっきらぼうに歩く、ジェイムズ・チャンスのイカれたリズムを口ずさみながら。
帰る時間など気にしなくても良い俺は自由の喜劇役者、
大衆チェーン店で餃子とウーロンハイなんてのもたまには「アリ」だ。
’10.5.20(木)

再びバリカン取り出し、両サイドを刈り込んでみる。
モダンイカサマモヒカン、少なくとも暫らくはハッタリモダンイカサマ気取りだ。
飽きたら次へ、次から次へ、気分次第で全てはバラ色、
歳を重ねる毎に若返る仕組み、俺はもう誰にも嘘など吐かない事に決めている。
本を小脇に挟んで雨の中を歩き、天下の「トロワシャンブル」に辿り着く。
「ウイスキーコーヒー」
すっかり旅人の気分で750円をウイスキーコーヒーに叩く、
ウイスキーとコーヒー、二大巨頭の共演に「福山自動車博物館」のポップTシャツを着て俺は挑む。
何も食べていなかったので気分が悪くなりかけたが、ジャズとその雰囲気、そして本を何ページか捲り元を取る。
「塵に訊け!」ジョン・ファンテ、作家を目指す自己陶酔を止めない青年の物語、
答えは塵の中、そしてアウトサイダーと呼ばれる人間の中に存在する。
「チャーシューメン」
南口商店街に存在する、「人生にはすっかり疲れ果てました顔」のおっさん経営の格安ラーメン屋へ入り込む。
そのおっさんが作ってくれるラーメンが好きだ、「何故なら人生の味がするから」などと洒落込む。
「このブーツにうってつけのクリームは?」
近所の靴修理屋へ潜り込み、ブーツを磨く為のクリームを手に入れる、雨を弾くスプレーもついでとばかりに用意する。
このブーツだけは壊さない、意志はいかなる場面でも強いに越した事はない。
「怖いのはもはや当たり前だ、真剣に生きているからだ」
どっかの偉大なる文学者の言葉が颯爽たるフラッシュバック。
まるで遠い街を旅している様だ、いや、実際、旅は続いている。
夜にはラム酒の海でダンス&ダンス、
様々なアイテムの力を借りながら、軽快な足取りで死ぬまで生きよう。