July 22, 2010

溶ける常夏のあん畜生共 ’10


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キッチンには腐った匂いが確かに漂っているがそんな事はもうどうだって良い。

一日を24時間で括るなんてまったくもって「古い」のかも知れない。

そして恋人が男だろうと女だろうとそんな事はもうどうだって良い。

こびりついた哀しみを振り払おうと炎天下に修理から戻ってきたてのブーツを履いて、

約束などするまでもなく、気付けば自然の成り行きで性格のまるで異なる相棒を連れ立って旅に出る。

降り立つのは東京駅近辺、

清楚且つ気品溢れる街並みをハナで笑うと同時に居場所のない事実に首を傾げる常夏のあん畜生共。

モダンな美術館を徘徊すれば三世帯ノータリンファミリーが泣き叫ぶ子どもを愛しそうに見つめている。

後ろの老夫婦が「連れてくるなよ」と小さく叫び、俺は首が取れる程に激しく頷いた。

美術館の近くにはかの有名な「コットンクラブ」があった。

「ここは前にも歩いたぞ」と突然思い出し、それと同時に「ミックスナッツ700円の悲劇」が思い出された。

流れ着く未開拓中野タウン、間髪入れずドンクサ原宿タウンを我が物顔にて練り歩くど田舎者二人組、

一人では断じて出向く事のない場所を巡り、俺は日に焼け、そして日が暮れても歩き続けた。

一人になるのが甚だ嫌になり、勝手に朝帰りを決断し、

エアコンなどない部屋の中でパイナップルにむさぼりつき、アイスコーヒーを飲み、コロナビールを嗜んだ。

眠る前に相棒が呟いた、

「朝御飯作りますか??」

「それ、恋人やないか!」

俺は答え、上半身裸で常夏気分のままに少しだけ眠った。

性格のまるで異なる相棒は昼からの仕事にも関わらず6時40分には颯爽と目を覚まし、

玄米と鯖の味噌煮、レタスとキュウリの入ったサラダを「朝御飯」として提供してくれた。

恋人が男だろうと女だろうとそんな事はもうどうだって良い、

キーホルダーに6300円を叩ける男、渡辺雅弘という名前があればそれで良い。

俺は御飯を味わい、玄関を出る時、「ありがとう」と何度も告げた。

他の言葉を発するウィットとセンスがほしかったが、そこは「ありがとう」で充分だった。

急ぎ足で腐ったキッチンのある俺の部屋まで戻る時、汗をダラダラと垂れ流しながら考えた、

果たして俺は今まで、誰かに対してこんなにも優しくした事などあるだろうか。


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drecom_eroom5session at 22:14│Comments(0)TrackBack(0)短編 

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