November 24, 2020
ザ・ライセンス vol.2
'20.10.28~11.13
思えば小学生時分から中古車情報誌を読み漁ったりしていたオレが車の免許さえ持たず生きていた。幾度も機会を見送り、口では欲しいを繰り返しながら手に入れないままに過ごしてきた。
この訳の分からん情勢の中、今がその時なんだと思いつき、積年の思いを一気に実らせるべく照準を根こそぎライセンス取得に合わせた。
条件は三つ、一人きりで、まだ足を踏み入れた試しのない町で、試験は全て一発クリアでってコトだ。
そして今、「山形」と書いて執念と読める。
そんな訳で今最も道路交通法を語れる男このワタシ、遂に、悲願の、ロマンの免許を取得した。
免許如きで気取るなとハナで笑われそうだが、コレには20年以上の果てしない思いが詰まってるってんだからしょうがない。人にはそれぞれ順番があるんだ。
山形では一日三食、朝から太陽を浴び、迷い込んだ宇宙人の様な風貌のまま学び、宿でも勉強を怠らず、22時頃には「そろそろ眠ろう」などと一人やっていた。
まるで産まれて初めてかの様に、規則正しいとされる生活リズムを徹底的に実行し、やけに甘いモノを欲せば、たけのこの里に貪りついたりしていた。
教官は最初、ほとんどの人達がオレを「免許取り消し処分になった男の再取得」と見なしていた様だが、そんなコトは断固どうでもよかった。
聞くとこの年齢で初免許ってパターンはそうそうないらしい。好きな言葉は例外だ。
よく喋るベテラン教官が、運転しているオレの横で「君はアメ車が似合うよ」と云った。オレは今年一番の笑顔でギアを4速に入れた。
目的に向かってただひた走り、挑むって経験を気付けば久方振りにした。最短の16日間で卒業証書を手に入れ、あとは住民票がある東京でしか受けられない最終学科試験をパスすれば車の免許が手に入るってところまできた。
11月13日、東京に戻った次の日、一気に狙うべく朝も早よから学科試験を受けに出向いた。ひっかけ問題に足を取られ焦って最後で躓いたらマズいと思ったが、40になるジャスト一ヶ月前の日付が免許証に刻まれたら痛快だと思った。
いざ始まった試験は、オレの教養が半端じゃないほど増えたのか簡単過ぎたのか知らんが、10問解いた段階で完璧にイケると思った。時間ぎりぎりまでひっかけに騙されてないか見直した後は、発表を待つまでもなく合格を確信した。
合格発表ではデカいスクリーンに受験番号が表示された。最初、オレの受験番号「024」は見当たらなかった。ない訳がないと言い切れるほど自信があった。そしてゆっくりと「024」を見つけ、やりやがったなコノヤローと叫んだ。
免許証が発行されるまで3時間くらい待たされた。その間、知らない街を徘徊しながらいつもとは違う視点で流れる車を眺めていた。
そして手に入れた免許証はゴールドだった。原付免許の色がそのまま更新されるって仕組みらしい。
その足で車を借りれる手続きをとっとと済ませ、次の日には強張った顔つきながら都内を走り回っていた。ドライブスルーに入り、運転席から「ホットコーヒーのMで!」などとヌカしている姿に誰よりも驚いているのはオレ自身だ。
そんな訳で今最も道路交通法に近い男このワタシ、これまでとは違う視点で中古車情報誌を捲りながら次の展開を思考している。
運転しながら珈琲が飲めるんなら酒など要らない。
(1346文字)
drecom_eroom5session at 11:06│Comments(0)│
│散文